【2024年最新】
花粉症かな?と思った方へ 〜症状・時期・対策・薬を解説〜
監修:日本医科大学大学院医学研究科
頭頸部・感覚器科学分野 教授 大久保 公裕 先生
本コーナーでは、気になりつつも今まで聞けなかった、
花粉症のアレコレを解説していきます。
1. 花粉症とは 〜花粉症のメカニズムを知っていますか?〜
花粉症とは
花粉症は、スギなどの植物の花粉が原因で起こるアレルギー疾患で、日本では約60種類の原因植物が知られています。くしゃみ、鼻みずといった鼻の症状や、目のかゆみ、充血といった目の症状が一般的ですが、人によっては、皮膚のかゆみ、のどの痛みやかゆみ、せき、頭痛、発熱などあらゆる症状があらわれます。花粉症は「国民病」ともいわれ、全国47都道府県を対象とした最近の調査では、日本人の2人に1人が花粉症の可能性があると報告されています。
花粉症の発症原因
私たちの体には、有害なものや不都合なもの(異物)を排除し、体を守ろうとする免疫機能が備わっていますが、時にはこの免疫反応が過剰になり、体に都合の悪い結果を招く場合があります。これをアレルギーといいます。花粉症は、体内に入り込んだ花粉(異物)を、体から排除しようと過剰に反応することで引き起こされます。
花粉症のメカニズム
花粉症の発症メカニズムには、いわゆるアレルギーを起こす前段階である「感作(かんさ)」と、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりといった花粉症の症状が出現する「発症」の2つの段階があります。
感作って?
花粉症の場合、感作は鼻や目の粘膜に付着した花粉から、アレルギー症状を起こす物質であるアレルゲンが溶け出して、粘膜に侵入することから始まります。体はこれを異物ととらえ、アレルゲンに対抗するための特異的な物質(IgE抗体)をつくり出します。このIgE抗体が、粘膜の肥満細胞(アレルギー反応で重要な役割を担っている細胞)に付着して、同じアレルゲンが再び侵入した時に、アレルギーを起こす準備が完了します。このように、花粉を異物と認識し、攻撃する準備が整った段階を「感作」といいます。
発症って?
「感作」が成立しても、すべての人がすぐに花粉症を発症するわけではありません。「感作」と「発症」は別のもの。人によって期間は違いますが、数年から数十年花粉を浴びているうちに、体内にIgE抗体が蓄積されていき、一定の水準に達したときに、くしゃみ、鼻みず、鼻づまり、目のかゆみといった症状が出現するようになります。これまで花粉症ではなかったのに、突然花粉症を発症してしまった!というというケースがあるのはこのためです。
2. 花粉症の症状 〜カゼと花粉症の違いは何?〜
花粉症とカゼの症状は似ていますが、くしゃみの出かたや鼻みずの状態が異なります。発熱や目のかゆみの有無なども、両者を見分けるポイントです。これってカゼ?それとも花粉症?と迷ったら、自分の症状をチェックして、正しい治療や対策につなげましょう!
カゼと花粉症を見分ける
~4つの症状チェックポイント~
あなたは花粉症?花粉症の可能性を自己診断してみましょう!
初めて花粉症になったときには、アレルギー検査をしなければ、カゼか花粉症かを判断しにくい場合もあります。でも「すぐに検査に行けない!」 そんなときには、下記のようなフローチャートを利用して、花粉症の可能性を自己診断してみましょう。あくまでも目安ですが、花粉症症状の種類や強さを把握することができます。
花粉症かんたん診断フローチャート
大久保 公裕 監修:「的確な花粉症の治療のために(第2版)」 P2, 2015(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf 2020/12/11参照
花粉症などのアレルギー性鼻炎で行われる主な検査
アレルギー性鼻炎の検査は、アレルギー性かどうかを鑑別する検査と、原因となる抗原(アレルゲン)を同定する検査に大きく分けられます。最初に詳細な問診を行ったあと、鼻鏡検査やアレルギー性であるかどうかの検査を行い、アレルギー性であれば、アレルゲンの探索を行います。
3. 花粉の飛散時期
(花粉カレンダー) 〜春夏秋冬、季節によって
どんな花粉が飛んでいる?〜
つらい花粉症の原因となる花粉は、いつから飛んでいつまで続くの?と疑問に思ったことはありませんか?花粉の飛散は、春・夏・秋・冬という季節や地域によって異なります。花粉カレンダーで、お住まいの地域の花粉をチェックしてみましょう!
関東エリア
常に何らかの花粉が飛散し、花粉の種類も多く、飛散期間も長いのが関東の特徴です。2~4月に順次飛散ピークがくる最もメジャーなスギやヒノキだけでなく、5月がピークのイネ科花粉や、ブタクサ属など秋の花粉も、他のエリアより長く多く飛散しています。また、ハンノキ属の花粉も1~6月に飛散するなど、一年を通して花粉症のリスクが高いエリアです。
関東エリアの月次の花粉飛散状況
- 1月:
- 東海、九州とともに、全国に先駆け、スギ花粉が飛び始めます。
- 2月:
- 中旬からスギ花粉が急速に増加し、下旬からピークに。
- 3月:
- スギ花粉の飛散ピークが続く中、上旬頃からヒノキ花粉も増加します。
- 4月:
- 上旬にヒノキ花粉がピークとなる一方、スギ花粉は下旬から終息に向かいます。
- 5月:
- ヒノキ花粉がほぼ終了。下旬には、3月中頃から漸増していたイネ科花粉がピークに。
- 6~7月:
- 5月にピークが到来したイネ科花粉は、少ないながらも10月頃まで飛散します。
- 8~11月:
- 9月を中心にブタクサ属、ヨモギ属、カナムグラなど草本植物の花粉が飛散。
- 12月:
- 秋のスギ花粉はわずかですが、10~12月に観測されます。
主な花粉症原因植物の花粉捕集期間
(2002〜2018年開花時期)
※ 主な花粉とその飛散時期をエリアごとにご確認いただけます。
朝・昼・夜で、花粉飛散量って
違うの?
季節や地域によって異なる花粉飛散量。では、朝・昼・夜ではどうでしょう。早朝、スギやヒノキ林周辺から飛散し始めた花粉は、午前中に郊外、住宅地、都市部へと飛散します。この飛散量は昼ごろまで高いままですが、午後いったん落ち着いて、日没前後に再び多くなることがあります。これは、夕方の気温の低下による空気の対流で、上空の花粉が地上に落ちたり、落ちていた花粉が再び舞い上がったりするためです。花粉の飛散ピークは1日2回!花粉飛散量が非常に多い春先の花粉症シーズンには、午前中や日中だけでなく、夕方の花粉の飛散にも注意が必要です。
※気象条件が一定の場合の、都市部におけるスギ花粉飛散パターンの一例です。飛散パターンは気象条件や季節によって変わります。
4. 花粉症の原因となる植物
~主な植物の種類と花粉・症状の特徴は?~
代表的なスギ花粉やヒノキ花粉以外にも、つらい花粉症の症状を引き起こす植物が数多くあります。いつ頃、どのような花粉が飛散し、花粉症の原因となるのか。主な原因植物の概要についてご紹介します。
花粉症の主な原因植物と花粉
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スギ
(ヒノキ科)スギは北海道の南部から九州にかけての広い地域で植林されており、人工林面積の44%を占めています。このためスギ花粉の飛散量が非常に多く、花粉症の最大原因となっています。
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ヒノキ
(ヒノキ科)地域によって異なりますが、スギ花粉と同時期か、少し遅れて飛び始めるのがヒノキ花粉です。スギ花粉と同様に飛散距離が長く、広範囲に及びます。スギ花粉症とヒノキ花粉症を合併している場合には症状が重症化しやすいため注意が必要です。
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ブタクサ
(キク科)キク科の1年草。明治初期に北米から入ってきた外来種で、マッカーサーの置き土産ともいわれます。ブタクサ花粉症は日本で最初に報告された花粉症で、秋の花粉症の代表格です。
カモガヤ
(イネ科)
植物によって異なりますが、イネ科花粉の飛散期間は最も長く、主に春と秋の2回、飛散ピークがあります。スギやヒノキ花粉症の時期を過ぎても花粉症状がおさまらない場合には、イネ科植物による花粉症を疑ってみましょう。
ハンノキ
(カバノキ科)
沼地や湿地に生えるカバノキ科の落葉高木です。花粉の飛散時期がスギ花粉と重なるため、スギ花粉症と勘違いされることもありますが、北海道ではスギはほとんど生えていないため、2~3月頃の花粉症は、ハンノキによるものです。
シラカンバ
(カバノキ科)
ハンノキと同じカバノキ科の落葉高木で、北海道で花粉症を引き起こす代表的な植物です。ハンノキとは花粉が似ているため、シラカンンバ花粉症になるとハンノキ花粉症にもかかりやすくなります。
ヨモギ
(キク科)
キク科の多年草で非常に繁殖力が強く、いたるところに分布しています。草餅やお灸のモグサの原料のほか、茎や葉は艾葉(ガイヨウ)という生薬としても使用されています。
カナムグラ
(アサ科)
アサ科のつる性1年草で、茎や葉に細かなトゲがあり、木や電柱などに絡みつきます。ブタクサやカモガヤと同様、日常生活圏内にも生息してるため、花粉を吸い込まないよう注意が必要です。
5. 花粉症の対策 〜セルフケアのポイントは?〜
花粉症の症状を予防し、悪化を防ぐには、日常生活の中で、できるだけ花粉を避けることが大切です。まずは自分自身で行うセルフケア!外出するとき、外から帰ったとき、家にいるとき、特に、次のようなことに気をつけましょう。
推奨したいセルフケア
その他の対策として、体調管理も大切です。粘膜を傷つけるタバコは避け、十分な睡眠やバランスの良い食事をとる、適度な運動を行うなど、規則正しい生活を心がけましょう。花粉症には早めの対策も忘れずに!
花粉症にマスクやメガネは有効?
花粉は非常に小さいので、マスクやメガネで全ての花粉をシャットアウトすることはできませんが、一定の効果は期待できます。例えば、ボックスの中に約3万個のスギ花粉を散らし、その中に1分間いるという実験を行ったところ、鼻粘膜に付着した花粉の数は、マスクをしないときと比べ、普通のマスクでは約3分の1、花粉症用のマスクでは約6分の1でした。また普通のマスクに水で湿らせたガーゼを挟み込むだけでも、効果があることがわかっています。
鼻の中と目に入る花粉数 実験的なマスク、メガネの効果
大久保 公裕 監修:「的確な花粉症の治療のために(第2版)」 P14, 2015(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000077514.pdf 2020/12/11参照
コロナ禍の花粉症対策
窓は開けるべき?!
新型コロナは3密(密閉、密集、密接)の場で広がりやすいため、現在その対策として、換気が推奨されています。ところが換気の結果、花粉を吸い込んでしまうと、くしゃみによる飛沫感染のリスクが高まります。ではいったいどうしたらいいのでしょう? コロナ禍では、まわりの人にコロナを感染させないことが最も重要です。このため、春の花粉シーズンでは、必要な換気を行いながら、薬を服用して花粉症の症状を抑え込むことが大切です。今まで、軽症で薬を飲まなかった人も、OTC医薬品の鼻炎薬などを服用し、花粉シーズンをうまく乗り切りましょう!
6. 花粉症の薬 ~OTC医薬品に配合されている
主な薬の種類と作用~
日常生活でのセルフケアを行っても、花粉症の症状を抑えられない場合があります。花粉症の治療には、いつ、どのような薬を飲むのがいいのでしょう。OTC医薬品※に配合されている主な薬の種類や作用を、簡単にご紹介します。
※薬局・薬店、ドラッグストアなどで処方せんなしで購入できる医薬品
花粉症の症状が出る前の早めの対策
日常のセルフケアだけでは十分に抑えることが難しい花粉による鼻炎症状も、本格的に花粉が飛散する前、または症状の軽いうちから鼻炎薬を服用しておけば(初期療法)、花粉の飛散量が多い時期のつらい鼻炎症状を緩和してくれます。花粉情報に注意しながら、花粉による鼻のムズムズを感じたら、アレルギー症状を抑える作用のある鼻炎薬を早めに服用し、対処しましょう。
花粉症の症状が出てからの対策
花粉症の症状緩和に使用されるOTC医薬品には、くしゃみ、鼻みず、目のかゆみなどの症状を抑える抗ヒスタミン薬(第1世代、第2世代)や抗アレルギー薬のほか、鼻粘膜のうっ血を改善する血管収縮薬、鼻みずの分泌を抑える副交感神経遮断薬、鼻粘膜や目の炎症を抑える抗炎症薬など、さまざまな成分が配合されている場合があります。また、内服薬だけでなく、点鼻薬や点眼薬など、異なる剤形の商品がありますので、薬剤師さんに相談するなど、自分に合うものをみつけ、早めに対処しましょう。
抗ヒスタミン薬とは?
花粉症の治療薬として主に使用される薬で、内服薬のほか、点鼻薬、点眼薬にも配合されています。第1世代(古いタイプ)と第2世代(新しいタイプ)があり、くしゃみ、鼻みず、目のかゆみなどを引き起こす、ヒスタミンの作用をブロックします。
内服薬
・第2世代抗ヒスタミン薬
第1世代より効果が高く、鼻づまりにも有効。抗ヒスタミン作用のほか、抗アレルギー作用がある。眠気や口の渇きなどの副作用が少ない。
代表的な成分 フェキソフェナジン塩酸塩、エバスチン、エピナスチン塩酸塩、セチリジン塩酸塩、メキタジン、ロラタジン
・第1世代抗ヒスタミン薬
くしゃみや鼻みずに速効性があるものの、第2世代と比較して眠気や口の渇きなどの副作用が強い。
代表的な成分 クロルフェニラミンマレイン酸塩、カルビノキサミンマレイン酸塩
花粉症の症状改善がみられない場合
症状が重い、あるいは長く続く場合には、慢性副鼻腔炎の合併など、ほかに原因がある可能性もありますので、医療機関での受診が必要です。
監修の先生
医学博士大久保 公裕 先生
日本医科大学 耳鼻咽喉科学講座 主任教授
大学院医学研究科頭頸部・感覚器科学 教授
付属病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 部長
1959年東京都生まれ。日本医科大学卒業。同大学院耳鼻咽喉科卒業後、アメリカ国立衛生研究所(NIH)へ留学。帰国後、日本医科大学耳鼻咽喉科准教授を経て、現在に至る。専門は、鼻アレルギー、花粉症など、免疫アレルギー性疾患。特に、舌下免疫療法など、アレルギー性鼻炎の新しい治療法に積極的に取り組んでいる。